低用量ピル(経口避妊薬)は、女性が毎日1回服用することで、妊娠や月経をコントロールすることができる薬です。避妊効果だけでなく、月経にまつわるトラブルの改善や美容にも効果があります。ピルの基本について学んでみましょう。
目次
ピルについて知る前に…まずは月経の仕組みをおさらい!
まず、月経の仕組みについて確認しましょう。
女性の体では、約1カ月に1回の周期で妊娠に備えて卵子が育ち、子宮内膜が分厚くなり、受精卵が着床しやすい状態を作っています。妊娠が成立しなかった場合、子宮内膜は不要であるため体の外へ剥がれ落ちます。これが、いわゆる月経です。
このように妊娠に備えた体の仕組みをコントロールしてくれているのが、女性ホルモンです。
女性ホルモンって何?
女性ホルモンには2種類あり、一つは、女性らしい体を作るための卵胞ホルモン(エストロゲン)、もう一つは妊娠を維持するための黄体ホルモン(プロゲステロン)です。
卵胞ホルモンは月経~排卵の間(卵胞期)に多く分泌されます。妊娠が起こらなかった場合に、排卵後~次の月経までの間(黄体期)に黄体ホルモンが多く分泌されるようになります。
ピルって何?
ピルと聞くと、“避妊薬”をイメージしますよね。
もちろん避妊薬としても使われますが、最近では、女性ホルモンをコントロールできる仕組みを利用して月経に関わる様々なトラブルを改善できることから、“治療薬”としても注目されています。
最も一般的に使用されるピルは低用量ピルと呼ばれるものです。
低用量ピルは、卵胞ホルモン、黄体ホルモンからできており、これらのホルモンの作用を利用したお薬です。
ピルの服用によって体外から女性ホルモンを取り入れることで、脳が卵巣に対して「女性ホルモンは足りているからもう作らなくていいよ」と指令を送るようになります。
この指令によって排卵や子宮内膜の増殖が起こらなくなるため、妊娠が成立しなくなります(かなり高い確率で避妊できますが、100%妊娠を阻止できるわけではありません)。人によっては月経に関わるトラブルも改善されます。
ピルはシート状になっていて、日によって飲むべき薬が異なります。医師の指示通りに、順番に服用することで初めて効果が得られます。
ピルを服用することで得られるメリット5選
ピルを服用することで得られるメリットを5つご紹介します。
メリットその1.高い避妊率が得られる
ピルを毎日一定の時間に忘れることなく服用している場合の避妊率は約99.7%であり、ほぼ確実に避妊ができるといえます。
万が一飲み忘れてしまった場合でも、飲み忘れなどをしてしまっても、その後で正しい対応を取れば、約91%の避妊率となります。
メリットその2.月経周期が安定する
ピルは月経周期を安定させてくれます。
一般的な月経周期日数は25~38日、変動6日以内とされていますが、それに当てはまらない状態のことを月経不順といいます。月経不順には様々な原因がありますが、その多くには排卵が関係しています。
ですので、低用量ピルを服用し排卵を止めることで、月経不順の原因が取り除かれ、月経周期が整います。
しかし、重度の月経不順や、原因が排卵でない場合の月経不順の場合は、ピルを服用しても月経不順が改善されないことがあります。
その時は、一度婦人科に相談してみることをおすすめします。
メリットその3.月経痛やPMS(月経前症候群)の症状が軽減される
ピルには、月経痛やPMSの症状を改善する作用もあります。
月経痛はご存じの方が多いと思いますが、PMSは月経痛と比べるとまだ話題に上がることが少ないようです。
PMSは黄体期(排卵~月経が起こるまでの間)に、女性ホルモンの分泌量が急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質に影響を与えることで起きます。
月経前の3日間~10日間に渡って、頭痛や吐き気、肩こり、めまい、肌荒れ、腰痛、腹痛などの身体症状に加え、イライラしやすくなる、何でもないことで悲しくなる、憂鬱になる、頭がぼーっとして集中できないなどの精神症状が出ます。
中には、日常生活に大きく影響が出るほど苦しむ方もいます。
低用量ピルにはこうした不快な症状を緩和する効果があります。
ピルの服用によって、月経痛やPMSの症状を引き起こす黄体ホルモンの分泌異常が改善され、症状が和らぐので、ほとんどの方が生理前~生理中の期間を楽に過ごすことができるようになります。
QOL(クオリティオブライフ)の向上に繋がるのです。
メリットその4.ニキビや美容に効果的な場合も
服用する人によってはピルが美容に効果をあらわすこともあります。
顔回りのニキビは、男性ホルモンの分泌量が過剰になり、ホルモンバランスが崩れることでできやすくなります。
ピルにはニキビの元となる黄体ホルモンや、卵巣・精巣由来の男性ホルモンを抑える働きがあるため、ニキビや肌荒れの改善等、美容効果も期待できます。
メリットその5.子宮がんや卵巣がんの予防になる
ピルは何種類かのがんになる確率を高めるとされています。服用停止から5〜10年の間、乳がんの罹患率がわずかに高まり、また、肝がんのリスクも高まるということが研究によって明らかになっています。
しかし一方で、いくつかの女性特有のがんに罹患する確率を下げることも明らかになっています。その代表が、子宮がんと卵巣がんです。
まず、低用量ピルを服用している人では他の人に比べて子宮がんの発生のリスクは50%下がります。この効果は低用量ピルの使用期間が長ければ長いほど、高まります。
また卵巣がんのリスクも大幅に減少することが明らかになっています。低用量ピルを5年間使用するごとに2割ずつ卵巣がんに罹患する確率が下がっていくことがわかっています。
ピルを服用するデメリット5選
ピルには魅力的なメリットがたくさんありましたね。
では、反対に、デメリットにはどんなものがあるのでしょうか。5つご紹介します。
デメリットその1.費用がかかる
ピルが保険適用となるのは、「医師の診断の結果、月経困難症や子宮内膜症と診断された」場合に限られます。
保険適応では1シート(1月経周期=28日分)でおおよそ750円-1000円ですが、保険適応外の場合は自費となり、1シート2000-3000円ほどです。
PMSやそのほかの体調不良などの治療である場合、保険適用になることがありますので、一度医療機関に相談してみましょう。
デメリットその2.副作用が起こることがある
ピルの副作用が心配で、服用をためらう方もいらっしゃると思います。
ピルの副作用は、飲み始めて1~2か月ほどの間に出やすいです。
ですが、体がピルに慣れてくることで徐々に副作用は目立たなくなります。
ピルによる副作用で代表的なものとして、下のようなものがあげられます。
- 不正出血
- 血栓症
- 吐き気
- 頭痛
- 胸の張り
- 眠気
症状の種類や程度は個人差がとても大きいため、何も感じない人もいれば重篤な副作用を経験する方もいます。
このため、ピルの服用をするときは医師の服薬指導のもと、自分の体調にいつも以上に気を遣う必要があります。
デメリット3.血栓症のリスク
低用量ピルには副作用として血栓症があげられます。
血栓症は、血管の中に血の塊が作られ、その部分の血液の流れが滞ったり閉塞したりする状態のことです。
血栓症の症状には、ふくらはぎや足首の痛みやむくみ、足のしびれや麻痺、胸の痛みや頭痛、めまい、失神などがあります。
ピル服用中にこれらの症状が出た場合は、すぐに受診しましょう。
ただし、ピルの服用によって血栓症が起こる確率は1万人のうち9人、またその血栓症によって死亡する人は10万人に1人の割合です。ですので、低用量ピルは特別危険とはいえません。
血栓症の副作用も他の副作用と同じで、最もピルの服用開始後1~3カ月までに起こりやすいとされています。それ以降は発症率が減っていきます。
基本的には医師や薬剤師の服薬指導に従うことが必要です。
自分でできる対策としては、ピルを服用する場合は、いつも以上にこまめな水分摂取を心がけ、時々は体を動かしてストレッチをするよう意識しましょう。長時間同姿勢でいることや、水分摂取量が不足している状態によっても血栓症のリスクは高まります。
ピルに関するQ&A
次は、ピルに関するよくある質問について説明します。
その1.「ピルを服用すると太る」 は本当?
低用量ピルの服用により体重増加を経験する人は少なくありません。しかし多くの場合、むくみによるもので、厳密にいえば太ったとは言いにくいです。
また、低用量ピルによって月経前不快気分障害による体重増加や浮腫(むくみ)を抑える効果も確認されています。ですから必ずしも低用量ピルの服用によって太るとは言えません。
その2.「ピルの服用で妊娠できなくなる」は本当?「赤ちゃんへの影響」はあるの?
長期にわたる低用量ピルの服用によって、妊娠しにくくなるということはありません。ピルの服用を中止することで、避妊効果はなくなり排卵も再開しますので、妊娠が可能な状態に戻ります。
低用量ピルは排卵を止める作用があります。しかし、低用量ピルの服用を停止すれば3ヶ月以内に9割の人は排卵します。
月経に関しても服用を停止すれば、飲んでいないときのように開始します。21%から36%の人が服用停止後1ヶ月以内に月経が開始し、3ヶ月以内だと、91〜99%の人が月経開始しています。
妊娠を希望する際にピルの服用を中止すれば基本的には問題がないと考えて差し支えないわけです。
また、妊娠初期に低用量ピルを服用していたとしても、ピルの服用が産まれてくる赤ちゃんへ及ぼす影響はありません。しかしながら、妊娠中もそのまま服用を続けても母体と胎児両方にとって安全であるということは確認されていませんので、妊娠がわかった場合、医師に相談の上服用を停止しましょう。
3.「ピルを服用すると癌のリスクが高くなる」は本当?
ピルにより癌になるリスクが高くなると聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。低用量ピルの服用によって罹患するリスクが高まるがんもあり、リスクが低くなるがんもあります。
まず低用量ピルによってリスクが減少するがんとしては、子宮がん、卵巣がん、大腸がんがあげられます。
子宮がんに関しては、服用を続けると罹患率が50%減少することが複数の研究で明らかになっています。また、子宮がんは低用量ピルの服用を続けるとリスクが減少することも知られています。
また卵巣がんについても25%のリスク減少が示唆されています。低用量ピルにより排卵が抑制されることで、排卵のたび卵巣が傷つくことを回避できているからという理由が有力です。
ピルはこんな方におすすめ
ピルは以下のような方に大変おすすめです。
- 月経痛やPMSの症状に悩まされている方
- 月経不順の方
- 避妊をしたい方
- がんの予防をしたい方
- ニキビに悩まされている方
ピルの服用をしない方が良い場合もある
どのようなお薬にも向き不向きがあるように、ピルの服用が向かない方もいます。
下記に該当する場合は、その旨を必ず医師に伝えましょう。
- 40歳以上の方
- 片頭痛を持っている方(特に目のチカチカ等前兆を伴うもの)
- 喫煙中の方
- 高血圧、糖尿病、血栓症、心臓の病気等大きな病気にかかったことがある方
- BMI25以上の方
- 乳がんにかかったことがある方
ピルが欲しい時はどうするの?
ピルには様々な種類があります。
種類によってホルモン含有量や種類が異なります。
ピルを服用する理由や、症状、疾患(子宮筋腫、子宮内膜症等の婦人科疾患)によって、適しているピルの種類が異なってきますので、ピルの服用を希望される方は、医療機関を受診し、医師に相談してみましょう。
オンライン診療、オンライン処方は忙しい女性の強い味方
婦人科と聞くと、待ち時間が長いというイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。
ピルをもらうために、毎回長時間待つのは避けたいですよね。
そんな方におすすめなのが、オンライン診療、オンライン処方です。
自宅にピルが届くので、大変便利です。
病院によっては、WEB予約等ができるところもあります。
まとめ
ピルの基本、メリット、デメリット、そしてピルをもらう方法について学べましたね。
ピルはしっかりと医師の診察を受け正しく服用することで、多くのメリットを得ることができます。
女性がいきいきと生活していくためにはもはや必須アイテムといっても過言ではありませんね。
副作用等心配なことがある方も、まずは一度医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。