ピルを服用するデメリットとして、血栓症のリスクが挙げられます。
ピルの服用により、1万人に一人おきる血栓症という副作用について、この記事では説明していきます。
目次
ピルと血栓症について
現在、低用量のピルは、避妊目的やPMS、月経困難症、生理痛や月経リズムのコントロールのために用いられています。
女性ホルモンの1つであるエストロゲンの含有量によって、高用量ピル、中用量ピル、低用量ピルに分類されます。
服用の際にはピルの副作用である血栓症に注意する必要があります。ピルを服用すると血栓症のリスクは高まるためです。
ピルを飲んでいない人では年間1万人に1~5人血栓症にと診断される一方、ピルの服用をした人では年間1万人に3~9人の割合で血栓症がおきます。
血栓症とは?
血栓症とは、血栓と呼ばれる血の塊が血管を閉塞してしまう病気です。
血管が詰まることで、抹消の障害が起こります。
また、多臓器にも障害が出ます。さらに重篤な場合、心筋梗塞や脳梗塞にもつながってしまいます。
血栓症には、動脈血栓症(動脈に血栓ができる)と、静脈血栓症(静脈に血栓ができる)の2つがあります。
動脈血栓症では、血の流れが速い動脈で起こるため、心筋梗塞や脳梗塞などを起こす原因となります。
ピルの副作用で問題となるのは主に静脈血栓症とされます。
血の流れが遅い静脈にできるため、肺塞栓症や深部静脈血栓症などの原因となります。
ピルによる血栓症のリスクとは?
ピルを服用すると、消化管から吸収されます。
その後、門脈を経て、肝臓内に取り込まれます。
肝臓内に取り込まれたエストロゲンは、肝組織を刺激して、血液の凝固系を活性化します。
このため、静脈血栓塞栓症のリスクが高まってしまいます。
ピルと血栓症が起こる理由について
ピルは、女性ホルモンの合剤で、身体を妊娠している状況に近づける効果を持つ薬です。
ピルを服用して女性ホルモンのバランスが変化することで、血栓症になるリスクが高まる人もいます。
エストロゲンが関わっていると言われていますが、原因はエストロゲンだけではありません。
ピルによって血栓症が起こる要因とは?
血液には、血液を固める成分と、血液を固めないようにする成分があります。
通常血中にはその両方ががバランスよく含まれています。
しかし、ピルを飲むことで、「プロトロンビン」や「フィブリノゲン」などの血液を固める成分が増えてしまいます。
一方、血液を固めないように働いている「アンチトロンビン」や、「プロテインS」などの成分が少なくなってしまうため、血栓ができやすくなってしまうのです。
また、血栓症は女性ホルモンとも関係しています。
ピルに含まれるエストロゲン(卵胞ホルモン)は、血液を固まりやすくする作用があります。こちらも血栓ができる原因になります。
ピルは血液の作りに影響を与え、血を固まりやすくするだけでなく、ピルに含まれるエストロゲン自体もまた、血を固まりやすくするわけです。
ピルによる血栓症は年齢や体質に関係がある?
年齢は女性ホルモン剤を使用する上で、重要なリスク要因です。
静脈血栓症のリスクについて15~19歳を1.0とした場合、25~29歳ではそのリスクは約1.9倍、30~34歳では約2.9倍、35~39歳では約4倍、40~44歳では約5倍、45~49歳では約6倍以上になることが報告されています。
ピルの使用は、40歳以上は慎重投与、50歳以上(または閉経後)は禁忌となっています。
喫煙も血栓症のリスクを高めます。喫煙している女性は、そうでない女性よりも静脈血栓塞栓症のリスクが2倍に高くなります。
また、喫煙本数を年齢に比例して副作用の発現率は高くなります。35歳以上で、1日15本以上の喫煙者は、ピルの使用は禁忌となっています。
肥満も血栓症のリスクになります。BMIが25以上のいわゆる肥満体型の方では血栓症になるリスクが約2倍に、30以上では約5倍になります。BMIが30以上の人は、ピルは慎重投与になります。
BMIは(体重kg÷(身長m)2)で計算できるので、ピルの服用をお考えの方は一度計算してみることをお勧めします。
まとめると、
- 40歳〜50歳以上の方
- 喫煙者
- 肥満体質の方
に関してはピルによる血栓症のリスクが高まるといえます。
ピルによる血栓症の症状は?
ピルによる血栓症の症状さまざまです。足の静脈にできることが多いため、足が痛む、ふくらはぎが痛む、赤くなる、腫れるなどの症状がよくみられます。
また、足以外の場所では、頭痛、目のかすみ、視野が狭くなる、舌がもつれる、失神、意識障害などがあります。
さらに、肺まで血栓が行くと、激しい胸の痛みや、押しつぶされるような感じ、息苦しさなどの症状が現れます。
少しでも、このような症状が気になる時には、すぐに服用を中止し医療機関を受診しましょう。
ピルによる血栓症と予防について
ピルは現在では月経困難症、生理痛や生理をずらすためなどにも用いられ、身近になりつつあります。
血栓症の副作用はありますが、正しく理解して、安全にピルを使用することが重要です。
血栓症は、多く起こる副作用ではありません。
副作用の兆候や症状を知っておくことで、早期に医師に相談するなど対応ができます。
ピルの服用に伴い、定期的な採血検査や超音波検査を行うとさらに安心かもしれません。
ピルによる血栓症を予防する為には?
日常的に血栓を予防する方法は、血栓を作りにくい生活習慣を送ることといえます。
そのためには、こまめな水分補給がまず挙げられます。
体の水分がたりなくなると、血液は濃く、ドロドロになります。
紅茶やコーヒー、アルコールなどは利尿作用があるため、脱水に陥りやすくなるので気を付けましょう。
日頃から、水などでこまめな水分摂取をすることが予防につながります。
また、適度な運動も重要です。
同じ格好で座り続けることや、同じ態勢を長時間続けるのは血液が滞る原因となります。
下半身を動かすことや、ストレッチをするのも効果的です。
また、どうしても移動やデスクワークで座っていなければならないときは、足首を動かしたり、下肢をマッサージするなどして血流を維持するのもよいでしょう。
ピルの処方で気をつけることは?
ピル服用時の血栓症のリスクが高い人として、肥満体質の方、喫煙者、40代〜50代以上の方を紹介しました。
他にもピルを飲むことで血栓症を含む健康リスクのある方は下記の通りです。
- ピルの成分に対し、過敏性素因のある女性
- エストロゲン依存性の腫瘍(乳がん、子宮内膜症など)およびその疑い
- 診断の確定していない異常性器出血
- 血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往
- 35歳以上で1日15本以上の喫煙者
- 前兆(閃輝暗点、星形閃光等)を伴う片頭痛
- 肺高血圧症、または心房細動を合併する心臓弁膜症の患者、亜急性細菌性心内膜炎の既往歴のある心臓弁膜症
- 血管病変を伴う糖尿病患者(糖尿病腎症、糖尿病網膜症等)
また、ピルの副作用として、吐き気や嘔吐が続く場合は、ほかのプロゲストーゲンを含むピルに変更するとよいとする医師もいます。
まとめ
ピルの服用により、喫煙者や肥満体質の方、40代〜50代の方は血栓のリスクを高めます。医師がリスクが高いと判断した場合、そもそも処方をしないことが推奨されています。
ですが、特別服用にリスクがないとされる方でも、通常に比べて血栓症のリスクは高まっています。そのため、日頃から、適度な運動や水分摂取、禁煙などの予防が必要です。
この記事の参考にした資料:
低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン
[最終更新日:2023年2月20日]